-----寒っ寒っ
響はコンビニの袋をカサカサ言わせながら小走り気味に家路を急ぐ。
家路といっても、まだ夕方前の15時半ごろ。なんとなく、小腹が空いて、それなのに家には食パンは切らしてるは買っておいた冷凍ピザは無いしで、とりあえずコンビニで済ますことにしたのだ。
食べて用意して、少し早めに出て買い物してから職場に行こうと思いながら、その足を速めると。
-----あれ?
「由岐人さん?」
マンションが見えてきたと思ったら、由岐人がこちらに向かって歩いてきた。
「何してるの?仕事、今から?」
「ん、通りまで出てタクシー拾おうと思ってね」
ビシっとスーツを着た上から、明らかに高そうな黒のコートを羽織っていた。触らなくてもわかる滑らかな風合いで、タイトなシルエットが由岐人を一層美しく見せていた。
「お疲れ様」
「響こそ、今日も仕事だろう?」
「うん。そっちが仕事で高崎さんいないし、まぁ不景気だからさ、やっぱり少しでも開けておかないとって事で」
「お互い頑張るしかないね」
響と由岐人は顔を見合わせて、クスっと笑う。
今年は特に色々あって、飲食業界への風向きはなかなか厳しい。この年末で店を閉店させるところも周りには何軒かある。お互いそうはならないだけでも、良しなのかもしれない。
「あ、そうだ」
「うん?」
「2日、ウチに来るよね?」
お正月恒例、4人で集まる。
「の、つもりだけど?」
「なんか食べ物リクエストある?咲斗さんは蟹って言うんだけどさぁ、蟹ってみんな黙るからさぁ、ほかになんか無いかなぁって」
「今から買うの?」
「明日買ってから仕事行こうかなぁって。冷蔵庫に入れさして貰えるし」
「ああ、そうか」
「どう?なんかある?」
「あーじゃあ、蟹でも剥いてあるのあるじゃん?」
「ああ、あるね」
「あれでいいんじゃないの?」
「そっか・・・でも蟹だけ?」
「うーん・・・あ、僕はこないだ食べた、鳥のから揚げのみぞれあん?が食べたい」
「いいよ、美味しかった?」
響が嬉しそうに笑う。それは一月くらい前、4人でご飯を食べたときに作った料理の1つだ。気に入って貰えたようで良かったと、響がにこにこすると、由岐人は少しばかり照れくさそうにそれを隠すように向こうを向いて頷いた。
「おっけー。じゃあ蟹と、後なんかほかに魚とかあったら見て、鳥カラね」
「筑前煮」
「了解」
響が満面の笑みを浮かべて返事をすると、由岐人はチラっと響をにらむように見てから、
「じゃあ僕急ぐから」
そう言って、早足で立ち去っていく。
その後姿に、
「いってらっしゃーい!!」
響は大きな声でそう言って、見ていないの手を振った。
頬が少し赤らんでいる由岐人の顔が可愛いなんて、由岐人に知れたら何を言われるか分からないようなことを思いながら。