バイトが終わったのは23時。当然ながら外もどっぷり暮れて空は真っ暗だ。
風も冷たくて、流石に冬の夜は随分冷え込むらしい。剛はマフラーを上げて顔を隠すように巻く。
「じゃあお疲れ様」
「お疲れ様です」
「お疲れ~」
従業員出口からバイトが銘々の声上げ手を振り自転車の者は自転車乗り場へ、バイクや車の者は駐車場へ、そして徒歩の者は駅へと向う。
電車組の剛と長谷川と鳥居は3人で駅へと向う。
「はぁ、疲れたなぁ」
長谷川はフリーターの26歳。ただバイト歴としては剛のほうが先輩なのだが、やはりそこは剛が敬語になる。
「ホントですね。寒いし。----長谷川さん明日もですか?」
「明日は、1日オール」
「働きますねぇ」
長谷川は笑った。どうやらお金を貯めてるらしいのだが、何故だかは良く知らない。
「鳥居ちゃんは明日も?」
「はい」
「角っちは?」
「はい。明日も同じ時間ですね。あぁ~明日も前田さんいないといいなぁ」
「はは。まぁ俺もあの人は苦手だけど。真面目なだけなんだろうけど」
3人がしゃべるたびに白い息が吐き出されて、空に消えていく。
駅前はもうクリスマスイルミネーションに染まっていた。
「もうクリスマスかぁー」
長谷川の声が聞こえたけれど、剛はただ口元に笑みを浮かべたのみで答えなかった。
由岐人と一緒に、どこかへでかけられたらいいな、なんてことを考えていたから。鳥居は何もしゃべらない。
駅の改札は、23時という時間帯か人はやはり少ない。
「じゃあ俺はこっちなんで」
剛は、長谷川と鳥居とは逆方向になるので、階段のところで軽く会釈をした。
「おう。また明日」
「おやすみなさい」
「おやすみ。----お疲れ様でした」
剛は挨拶をすると、振り返る事も無く階段を上がって行く。
その背中を、じっと鳥居が見つめていたことを剛は知っているのか。
剛がホームへ上がると、すぐに電車が滑り込んで来た。それに合わせてバイト先を出て来ているのだから当然といえば当然。
電車に乗り込めば冷えた身体を暖房の温かさが包んだ。
電車で10分揺られて、少し歩けばもう家だ。もちろん、待ってる人がいないのはわかっている。仕事中なのだから。それでも何故か、早く家に帰りつきたいと、剛はいつも願ってしまう。
眠りたいとか、帰って休みたいとか、お腹が空いたとかじゃなく。
ただ、あの家に帰りたいと思うのだ。
1秒でも早く。
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