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 ピンポーン
「え?」
 チャイムの音に、咲斗は思わず時計を見た。
 ----もうそんな時間?・・・って、まだ1時過ぎだし。
 チャイムの音に由岐人が迎えにでも来たのかと慌てて時計を見たが、その時間にはまだ1時間も早い。ということは、何かしらの勧誘やセールスのたぐいだろうかと咲斗が首をひねりながら、インターホンに出ようと足を一歩踏み出したところで、バタバタと廊下に足音が響いた。
「はいはーい」
「響?」
 響の少し弾んだ声に咲斗の眉が不機嫌に寄せられて、自室のドアを開ける。
 響は、"明日は雨でしょう"という天気予報を聞いてあわてて洗濯を始めていたはずなのに。
「はい、----あ、はいそうです、上までお願いできますか?-----そうです、じゃあ宜しくお願いします」
 ふふっと嬉しそうに笑う響の横顔に、咲斗の眉はより一層寄せられて、その眦もひくりと吊りあがる。
 何がどうというのではない、響が自分知らないところで浮かれている。その理由がどうもインターホン越しの相手にある様で、その事実だけで誰かは知らぬし何かはわからぬが、無性に腹立たしくなってくるのだ。
「---誰?」
「えっ!?あ、吃驚した。----って何、怖い顔して?」
 響は咲斗の顔を見て、吃驚してしまう。だって、さっきまであんなに上機嫌で朝食を食べ、メールのチェックをして着替えてくるね、と頬にキスをして部屋に行ったばかりなのに、一体不機嫌になる要素がこの短い時間の間のどこにあったのか。
「---今の、誰?」
「今のって」
 これ?と響は思わずインターホンを指さすと、咲斗が無言で頷いた。
「あのね・・・」
 響が思わず脱力、という態でした返事に再度のインターホンの音が重なった。
「あ、待ってて」
「響!?」
 響は軽く手を挙げて咲斗を止めてから、玄関に向かう。そのパタパタと鳴る足音に、苛立った足音がつらなった。
「はーい」
「あ、どうもアカネコ運送です」
「どうも御苦労さまです、あ、サインですね」
「・・・・・・」
 -----荷物?
 開けられたドアの向こうにはおなじみの制服を着た、運送会社のおじさんが小さな箱を持って立っていた。
 -----なにか荷物なんて頼んでただろうか?
「はい」
「ありがとうございましたぁ」
 サインをした伝票を響が渡すと、おじさんは人好きするような笑みを浮かべてぺこりと頭を下げてから、ドアの前から姿を消した。
 響は小さな箱を左手に抱えて、ドアを閉める。
「なに、それ?」
「チーズケーキ」
「チーズケーキ?」
「そうだよ。こないだ時間つぶしにネットしてたら、たまたま見つけて。GW期間限定特価、2種類セット送料無料今だけ40%OFF!!!ってね、で、なんか食べたくなって思わずポチっとね」
 へへーと照れたように笑う響に、咲斗の眉がみるみる下がる。
「そんなの言えば買ってくるのに」
 言いながら箱を受け取り、キッチンへと向かう。
 -----なんだ、チーズケーキか。
「や、なんかある意味衝動買いだからさ」
 響が咲斗の後を追ってキッチンへと向かう。
 二つの足音が、重なって聞こえた。
「あ、冷凍だからすぐには食べれないんだ------どうする、冷凍しとく?1個冷蔵にしとく?」
「1個冷蔵にする!!!~~あーどっちがいいかなぁ~どっち先食べようっかなぁ~」
 響が中身も見えぬ白い箱のまま見比べて悩む、その姿に咲斗はますます甘い顔つきになりながら響を見つめた。
 その手がそっと、響の腕に伸びる。
 

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