-----お・・・いい匂い!!
ジュっとフライパンの音がして、たちまち良い香りが立ち込めてきた。
剛はデニムパンツにTシャツに手早く着替えた。腕に革製のアクセを巻いて、時計をつける。そして、冷蔵庫からまだ冷やしている冷たいお茶をグラスに注いで椅子に座った。
「うわ、まじ美味そう!!」
覗きこむと、大き目の少し深さのある皿にご飯が盛られていて、その上に豆腐や卵、レタスに蟹身が入ったスープがかけられていく。
最後に葱を散らして、
「はい、お待たせ」
由岐人は剛に出来た手のスープご飯を渡した。
「さんきゅー。いただきます!!」
パンっと手を合わして剛はスプーンでご飯をすくう。
中華風に味付けされたそれはスープも手伝ってか、胃に入りやすい。
「まじ美味い」
「・・・良かった」
ぼやんとした反応ながらも返って来た声に、どうやら少し起きてきたらしいと剛はわかった。
「レタスのシャキシャキ感がまたいいな」
「・・・うん」
由岐人もお茶を持って剛の隣に座る。
「昨日、むぐ----遅かったのか?」
自慢じゃないが、剛は由岐人が帰って来たのを知らないのだ、熟睡中で。
「んんー・・・、いつも通り」
「結構飲んだ?」
言いながら皿を持ち上げた。
「ちょっとだけ」
「そっか」
「ん」
由岐人を見ればまだ目がとろんとしている。
こういう時は、通常の状態と違ってほんわりしていて本当にかわいいと思う。
剛は大きな口でまたたくまに朝食を食べ終えた。
「美味かった!ご馳走様」
「どーいたしまして」
「悪いな」
剛は言うと、流しに皿を置いた。洗い物をすませていく時間が無い。
「いいよ。どーせ後で、僕も、作るし」
-----ああ、ちょっと限界かな?
由岐人の頭が少し揺れている。いつもよりだいぶ眠そうだけど、本当に昨日いつも通りだったのだろうか。
剛はだいぶ疑問に思いながらも問い詰める事はなく、先日買ったばかりのスタンドZIPUPを羽織って鞄を肩にかけた。
剛が玄関に向うと由岐人も見送りのためについてくる。たぶんこのまま寝室に戻るのだろう。
-----ま、大丈夫かな。今日はだいぶ眠そうだし。
剛はそう思うと、不意に顔を近づけてチュっと由岐人の唇にキスをした。
由岐人は一瞬出来事を理解して無いのか、顔がほわんとしたままである。通常ならこうはいかないが。
「じゃあ」
剛は朝から味わった由岐人の唇に顔をにんまり緩ませて飛び出した。
一瞬シラフに戻って鉄拳が飛んでくる前に。
取り残された由岐人が顔を赤白にさせて、剛の出て行ったドアをバンっと蹴ってからベッドにダイブした事はしらない。
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