その日は2限が休講になっただけで3限は普通の授業があったので受けて本日は終了。サークルなどには入っていない剛なのだが、ゼミはありその日の予定をこなして校舎の外に出て時計を見れば、5時前。
-----疲れた。
この後はバイトである。
携帯を見ても、わかっていたことだけれど由岐人からのメールは無い。大体由岐人が急用以外でメールを送ってきた事が無いのだ。その代わりといってはなんだが、響からメールが入っていた。
”今度買い物に付き合って”
-----買い物…?ああ、あれか。
剛は、そういえばクリスマスプレゼント何にしよ~っとぼやいていた響の言葉を思い出した。
-----そうなんだよなぁ。今年も残り僅かだし、もうクリスマスなんだよなぁ。
クリスマスプレゼントは人事では無い。剛も由岐人に何か買いたいとは思っているのだ。
-----そのためにも、バイトだな。
まずは先立つものを調達しなければならないのだ。
剛は心も新たにバイト先へ向かうべく気合を入れて歩きだすと、不意に後ろから声がかかった。振り返ってみれば、高遠と井上である。
井上は授業では見なかったからサークルのためだけに大学へ来たのかもしれない。
「おう!なんだよ」
「剛もう帰んのかよ」
「これからバイトなんだよ」
「マジ!?そっかぁ、じゃあダメか」
井上はがっくり肩を落とした。走ってきたのか、息がだいぶ上がっている。
「今夜のコンパ一人足りないんだってさ」
高遠が代わりに言って肩を竦めた。剛の答えが分かってるからだろう。
「井上、悪いけど俺コンパ誘われても行かねーから」
「コンパって思わないで飲み会って思って来いよ」
「でもコンパなんだろ?」
「・・・まぁ、そうだけど」
剛は井上に返事に何も言わないで、ただ苦笑を漏らした。こういう会話を繰り返すのも今回が初めてじゃないのだ。
高遠は諦めろ、とでも言う風に井上の肩を叩く。
「悪いな。じゃあ」
剛はそう言うと、二人に背を向けた。
男同士の飲み会なら付き合うし、たまにはオールで飲むこともいとわないのだが、そこに女の子が絡むと剛の腰は途端に鈍くなる。
そんな剛に”あいつホモなんじゃねーの”と陰口を叩く者がいるのも知っているが、さして気にしてはいない。
くだらない事を言うやつは、たいていもてないやっかみなのだから。
剛だって、女の子を交えて騒ぐ事が嫌いじゃない。ただ、もし万が一それで由岐人に何か誤解を与えたり傷つけたりしたくないだけだ。
まだ不安定さを残す、恋人に。
剛は少し早足で駅へと向った。
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